フランス地方菓子クグロフとはどんなお菓子か、材料や購入先、名前の由来や歴史、同じ種類のお菓子、呼び名の違いなどクグロフにまつわる話を詳しく紹介します。
フランス地方菓子クグロフとは?
クグロフ Kouglofはレーズンが入っている王冠の形をしたお菓子で、フランスのアルザス地方でよくみられるお菓子です。
クグロフは元々オーストリアやポーランドで古くからあったお菓子でした。中世末からドイツ周辺のルクセンブルク、スイス、オーストリア、ポーランドなど、フランスではアルザス、ロレーヌ、フランドル地方で作られていました。クグロフは村の結婚式や洗礼式といったハレの日に食べていました。
現在のクグロフはパンを作るイースト菌を加えて膨らましていますが、18世紀まではビール酵母をつかっていました。
中に空洞のある王冠型をして、クグロフの頂上にはアーモンドが飾ってあり、表面には粉糖が振ってあります。元々はフランスではアルザス地方の伝統菓子ですが、現在ではフランス各地のパティスリーなどで見られるお菓子となっています。
クグロフに空洞があるワケ
クグロフを作る際にはクグロフ型といわれる陶器の型をつかいます。この型は円錐型でまわりにひねったような溝模様がはいっていて、中には縦に穴があいています。
中に空洞があるのは熱伝導をよくするためです。
穴がないと、型は高さもあり分厚いため、中まで火を通すのに時間がかかってしまい、外は焦げて中は半生になってしまいます。そのため中まで均一に火を通りやすくするために空洞をあけました。
クグロフ型はバ=ラン県(Bas-Rhin)のスフレンアイム村(Soufflenhiem)の赤土を使って作る陶器が有名です。生地を焼いた後に繊細なお菓子の香りが長く残るのが特徴です。
現在では、金属やシリコンのクグロフ型もあります。
[フランス語名]
クグロフ Kouglof / un kouglof
フランス地方菓子クグロフの材料
分類 | パティスリー |
構成 | ブリオッシュ生地 |
材料 |
|
クグロフのフランスでの購入先
クグロフは主にアルザス地方で購入することができます。アルザス地方以外でも一部のパティスリーやブーランジュリーで作っていることもあります。価格は小さいものでひとつ4€~、大きいもので10€〜です。
フランス地方菓子クグロフの名前の由来
クグロフのフランス語の名前の由来は諸説あり、いまだに確かなものはありません。その様々な説を紹介します。
「球」に由来している説
アルザス地方では、クグロフをクーグルポブフ Kugelhopfともいいます。
アルザス地方ではクーグルポブフ Kugelhopfともいい、ドイツ語で「球」を意味するKugelと「ホップ、酵母」のHopfenを合わせたアルザス語が語源となっているという説があります。
「帽子」に由来している説
ドイツ語でクグロフはグーゲルフップフ Gugelhuphともいいます。
14世紀、アルザス地方で流行したグーゲルフエッテ Gugelhueteという帽子にクグロフの形が似ているということから名付けられたという説があります。その帽子はストラスブールの議員がかぶっていた、または僧侶の頭巾だったともいわれています。
東方の三博士に由来している説
とても有名なお菓子の場合、歴史的に大きな事件とムリヤリ結びつけて由来話にしていることもあります。
現在のストラスブールから南へ75kmのところにある小さなリボヴィレ村(Ribeauvillé)にクーゲルというおじいさんが住んでいました。
ある夜、3人の旅人に泊めてほしいと頼まれ、クーゲルは彼らを泊めてもてなしました。じつは、3人の旅人は誕生したキリストに会いにいく東方の三博士という人たちでした。
彼らは宿をかしてくれたお礼に、お菓子を焼いてくれました。そのお菓子は山の形をしていて、山に積もった雪に見立てた砂糖を振りかけていました。そのお菓子の形はアルザス地方にあるオーネック山(Hohneck)に見立てたものでした。
泊めてくれたクーゲルさんの名前をとって、そのお菓子につけたという説です。
これは紀元0年の話ですし、伝説レベルの話だと思います。お菓子が有名になってくるとこの手の伝説が出てくることは珍しくありません。ただ、クグロフのような食べ物はこのくらい昔から食べられていたようです。
クグロフの名前の種類
クグロフは由来話も多く、多くの国に広がったので呼び名も多くあります。
- kouglof[クグロフ]
- gouglof[グーグロフ]
- köjhopf[ケーホフ]
- kougelhopf[クーゲルホップ]
- kougelopf[クグロフ]
- kougloff[クグロフ]
- kuelopf[クエロフ]
- kugelhopf[クーゲルホップ]
- Kugelhoff[クーゲルホフ]
- Gugelhupfh[グーゲルフップフ]
フランス語には元々Kから始まる単語は少ないため、このお菓子が東ヨーロッパから伝わったお菓子ということが分かります。
ドイツ語圏では下記のように呼ばれていることもあります。
- Napfkuchen:ナップフクーヘン
- Rodonkuchen:ロドンクーへン
ドイツ語でkuchen(クーヘン)とは焼き菓子のことを意味しています。
クグロフのフランスでの歴史
クグロフは元々オーストリアやポーランドで古くからあったお菓子でした。
中世末からドイツ周辺のルクセンブルク、スイス、オーストリア、ポーランドなどの国、フランスではアルザス、ロレーヌ、フランドル地方でつくられていました。クグロフは結婚式や洗礼式といったハレの日に食べていました。
18世紀のルイ15世の時代、ポーランド出身のロレーヌ公国のスタニスラス王もクグロフと食べていました。
オーストリアのハスプブルグ家出身のマリー・アントワネットは大好きで、小さい頃から親しんでいたのがクグロフでした。
彼女がルイ16世に嫁いできたことがきっかけとなり、フランス宮廷にクグロフが広まりました。小さい頃からの懐かしいお菓子が忘られなかったのでしょう。
彼女の有名なセリフ「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」というのがありますが、この「お菓子」はクグロフを指しています。彼女にとってはクグロフは日常的に食べているパンでしたが、庶民は小麦粉と塩でつくるパンでさえ食べれなかったため、そのセリフに大反発しました。
その後、アントナン・カレームによりさらに普及していきました。彼はクグロフのレシピを駐仏オーストリア大使シュヴァルツェンベルク大公の料理長であるウジェーヌから教えてもらいました。
現在と同じクグロフの記録が残っているのは19世紀半ばごろです・
1840年のピエール・ラカンの『菓子製造業の覚書』には、パリにコック通りのパティスリーのジョルジュという菓子職人がストラスブールからレシピをもとに製造していました。パリでも流行し、毎日100個も売れていました。
たっぷりのバターとマラガ産のレーズンを加え、鐘形の陶器の型をつかって焼きました。型の内側にはバターを塗って、スライスアーモンドをはりつけ、焼き上がったら粉糖を振りかけていました。このクグロフの作りかたは今のものとまったく同じです。
クグロフの進化
クグロフはババやサヴァランの元になったお菓子といわれています。つまり、お父さんがクグロフで、子どもがババ、孫がサヴァランという親子関係です。
ババとは干しぶどうの入っていないクグロフをラム酒入りのシロップに漬け、生クリームを添えたお菓子のことです。前述のスタニスラス王が乾燥したクグロフをラム酒をかけて食べたことにより、ババが誕生しました。
サヴァランはドーナツ状のクグロフ生地をラム酒入りのシロップに漬け、フルーツやカスタードクリームを絞ったお菓子です。19世紀のパリで、ババを元にしてサヴァランが考案されました。
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